第292号 転換の時代
>>日々通信 いまを生きる 第292号 2009年6月10日<<
発行者 伊豆利彦
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転換の時代
5月は一度も発信できないまま過ぎた。体調は特に悪いわけではないが、頭脳がぼんやりして文章が書けない。しかし、送信を待って下さる方々のメールその他に励まされて、なんとかとびとびにでも発信をつづけたい。読みにくいかもしれないが、おゆるし願いたい。
今年も4月29日の「昭和の日」から、メーデー、憲法記念日、「こどもの日」とつづき、その間には「みどりの日」まで設けられて、いわゆるゴールデンウィークの大連休となった。高速道路が1000円で乗り放題になったこともあり、人出が多く、大渋滞が伝えられた。人々は連休にうかれて祝日の由来など振りかえりもしないようだった。
テレビで通行人が5月3日は何の日かと聞かれて、メーデーもこどもの日も知っているが、5月3日は知らないと答えていた。5月3日は何の日か知らない人は意外に多いのかも知れない。国民の多くは憲法を意識することなく、経済危機も気にかけず、連休だ、新型インフルだと平和の日々を過ごしているのだろうか。
去年の今頃のマスメディアはチベット問題で沸き立つようだった。自由と人権が声高く叫ばれ、中国の強権独裁体制が非難攻撃されて、中国経済はオリンピックの後では崩壊を免れないというような論調が横行していた。しかし、いまは世界経済大不況の波の中で、アメリカもEUも日本も中国の経済復興に期待する動きが強まっている。
小林多喜二の『蟹工船』の異常な売れ行きが話題になり、若い世代の苛酷な労働の実態も伝えられたのも、去年の今頃だった。いまの若者の労働現場は当時とそっくりだいわれたが、当時はまさかという思いが一般だったのではないか。しかし、やがてアメリカに端を発する大不況の波に襲われ、非正規社員の大量クビキリが発生して、職とともに住も失って路頭に迷う人々が続出する及んで、いまの労働者がまったく無権利状態で働かされていることが人々に衝撃をあたえた。ひたすら利益をのみ追求して、非正規雇用の労働者を大量に雇い入れ、不況が来ればたちまち大量解雇に踏み切る。いま人々は、資本と労働の関係についていやというほど知らされた。形がかわってもそれは『蟹工船』の時代と同じなのだ。世界を揺るがす大不況は世界を破滅の危機に追い込んで、そこからの転換を求める動きが強まった。この危機がアメリカで、史上はじめての黒人大統領を生んだ。
オバマを支持したのは若者たちばかりではない。金融機関や大資本も多額の選挙資金を献金している。オバマ就任後100日を過ぎて、金融機関や巨大自動車産業救済に巨額の国費が投入され、これに対する反対の声も強まった。(掲示板9381.金融機関にのっとられた国、9271.オバマ政権の100日と日米関係の課題参照)
変化を主張するオバマは、アメリカの進歩的伝統、一つのアメリカを強調し、革命や破壊ではなくて、体制維持を求めたのだ。国務長官に大統領候補をはげしく争ったヒラリー・クリントン氏、国防長官にブッシュ政権時代から引き続きゲーツ氏、財務長官にニューヨーク連銀総裁だったガイトナー氏を選任した。政党政派を超えて自分に不足する経験を重視した人選だった。
100年に一度ということがしきりに言われる。特に麻生首相が目立って頻繁にこの言葉を使うようだ。無法な政策の隠れ蓑のようで見苦しいが、日本でも強行される大量クビキリなどが当時を思わせることは事実だ。ブームを呼んだ『蟹工船』が出版されたのが1929年だったことも決して偶然ではないだろう。
この危機は、日本社会の矛盾を露出させ、変革の必要を痛感させる。去年の『蟹工船』から、今年は『資本論』の入門書がこれまでになく売れているようだ。社会主義といえばソ連型の官僚主義であり、悪の根源として直ちに否定される傾向があったことを思えば時代の変化に驚かされる。戦後日本の政権を独占してきた自民党の支持率が急低下したのもこのためだと思われる。反自民というだけで、特にはっきりした政治的主張がなく、政権交代を強調するばかりの民主党もたよりないが、いまは変化を求めて解散総選挙への期待が高まっている。
アメリカではオバマ大統領に対する批判が保守からも革新からも高まっているようだ。オバマの道は保守でも革新でもない超党派の道なのだろう。イラクからの撤兵は大きな決断だが、その代りアフガンへの派兵が増強されて、戦争からの離脱は容易ではない。しかし、国際協調を求め、イランとの対話の道を探り、パレスティナ問題の平和的解決にも積極的に動いている。何よりも注目すべきことは、過去の原爆投下の責任を認め、核兵器廃絶のために努力すると宣言したことだ。これについて日本共産党の志井委員長が歓迎のメッセージを送り、オバマ大統領はこれに感謝して、協力を求める返書を書いた。ここには明らかに新しい時代のはじまりが認められる。
オバマの宣言にも励まされて、核兵器廃絶を求める動きは、大きな波となって世界を動かしている。去年はかつての日本の戦争を美化する田母神発言などがあったが、泥沼のイラク戦争の犯罪性が曝露されたばかりでなく、長引く戦争が経済の危機をまねき、アメリカが戦争からの脱出を求めて四苦八苦しているいま、史実も論理も無視した妄想的な発言は、事実を知らず、自己の拠り所を失って藁にもすがりたい人々の心さえとらえることができなくなった。
今年の憲法記念日は例年の9条論議以上に、25条の生活権の問題が活発に論じられた。9条の会の運動は、いまでは各地各界に結成された自発的な賛同組織が5000を超え、国民を動かす大きな運動になった。いまでは世論調査で九条改憲に反対する意見が賛成意見を大きく上回っていると伝えられる。アメリカがイラク戦争で行き詰まり、オバマ大統領が登場して、戦争から平和への動きが大きくなったためであろう。
オバマが直面する危機はブッシュ政権から受け継いだもので、その打開は容易ではない。オバマ自身が失敗するかもしれないと言いながら、しかし、何かをしなければならないと言って短時間に可能な限りの速さで対策を打ち出しているのだ。そして、核兵器問題だけでなく、中東問題でもイスラムとの和解のために大胆な提案を行っている。
朝鮮問題ではめざましい進展がなく、北はミサイル実験、核実験とエスカレートしているが、結局は米朝関係は国交回復に向けて進展し、6カ国協議は成功すると信じている。すくなくとも、強くそれを願っている。日本のマスコミには、まるで朝鮮が暴発し、金正日体制が崩壊するのを望むような報道があり、総理その他に「敵地攻撃能力」についての発言があるが、いろいろあっても、結局、平和的解決を実現するしかないのだろう。これまで世界中に戦争をまき散らしてきたアメリカがオバマ政権に替わったのだし、どこの国も本気で戦争を望んではいない。朝鮮の強硬姿勢も結局は対米交渉のきっかけを求めているのだと思う。
問題は次々におこり、次々と問題を追いかけて、書きかけの通信はいつになっても終わらない。私の生涯は残り短いのだし、いつまでもこんなことをしているわけにはいかないのだ。時事問題は掲示板にまかせて通信ではもっとちがったアプローチをしたい。
いよいよ梅雨を迎える。梅雨は誰からも嫌われるが、もし、梅雨がなくていきなり暑い夏を迎えたら大変つらいのだ。はじめて中国に滞在し、7月のはじめに帰国したとき、梅雨の日本がどんなにうれしかったか知れない。これとはちがうが芥川は湿っぽい梅雨の季節が好きだと書いていた。私も年をとって、激しい暑さの夏よりも、この湿気の多いおだやかな梅雨の方がありがたいようになった。皆さんも梅雨の効用を知って、元気に過ごしていただきたい。


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