第275号 チベット問題に関連して。
>>日々通信 いまを生きる 第275号 2008年4月17日<<
久しくご無沙汰しました。
チベット問題に関連して。
発行者 伊豆利彦
ホームページ http://homepage2.nifty.com/tizu
アメリカがイラクに侵寇して5年になる。ブッシュ大統領の就任後間もなく9・11同時多発爆破事件がおこった。ブッシュはオサマビンラディンをかくまっているとして、アフガニスタンに大量のミサイルを撃ちこんで多数の市民を殺戮し、これを「無限の正義作戦 「不朽の自由作戦」と名づけた。アフガンで「正義」と「自由」のために多数の人々を殺しただけでなく、アメリカ国民に対しても「愛国者法」を制定してその自由をうばった。
ブッシュは翌年2002年1月29日の一般教書演説で、反テロ対策の対象として北朝鮮、イラン、イラクの3ヶ国を名指「悪の枢軸(axis of evil)」と総称して批判し、2003年3月には独仏をはじめ多くの国々の反対を押し切ってイラク戦争に突入した。
アメリカは14万の大軍を派遣し、最新の近代兵器を投入したが安定をもたらすことができず、さらに3万を増派してバグダッドの治安の維持に成功したと伝えられ、撤退が論議されたが、実際にはその安定は<もろい>もので、到底、撤退は不可能だということだ。この戦争でアメリカの青年の死者が4000人に達し、負傷者や神経に障害を来したもの、自殺者などを加えればその数は莫大になる。また、莫大な軍事予算はアメリカ経済を根柢から蝕み、ホームレスが増加し、戦争から帰還した復員者にホームレスになるものが多いともいう。イラク侵攻から5年、アフガン攻撃から数えれば8年、はじめは<自由>だの<人権>だのというかけ声に熱狂したアメリカ国民もその実態を知り、経済的破綻もあって、深い疲労感にとらわれはじめた。
日本の戦争も長い戦争だった。1931年の満州事変から数えれば15年、蘆溝橋事件から数えれば8年。満州事変から6年で蘆溝橋事件、それから5年目に対米英戦争に突入した。アメリカも戦争の行き詰まりの打開を対イラン戦争、全中東に拡大する大戦争に求める動きもあるという。もとよりそれは破滅の道だが、かつて日本の軍閥は、ジリ貧かドカ貧かという博打打ちのようなことを唱えて破滅の道をえらんだ。12月8日、開戦の詔勅には国民は国を挙げて歓迎したのだ。この戦争に反対する人々はすでに獄中にあり、非転向のまま刑期を終えて出獄していた人々は予防拘禁法(→http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/rn/senji2/rnsenji2-114.html)で拘留された。
アメリカでは、開戦にわきたった国民の間にいまはイラク撤退の要求が強まり、次期大統領選では民主党候補の勝利がほとんど確定的と伝えられる。それも予備選ではこの問題で旗幟鮮明なオバマ候補の優勢が伝えられる。選挙戦も大勢が決してクリントン候補の撤退を求める声が民主党内にも強まっているのに、クリントン候補が拒んでいるため、両候補の非難合戦がつづき、緊張を欠いた停滞感がつよまっている。チベットの暴動はこのような状況でおこり、中国に対する非難と攻撃にマスメディアはわきたった。
私のホームページの掲示板にも自由と民主主義、チベットに自由をと叫ぶ投稿が氾濫した。過去の日本の戦争を肯定し、中国や朝鮮を攻撃することに熱中する連中までが、奇貨おくべしともっとも熱心に正義の声をあげている。この事件の根源に中国の支配に抗議するチベット人の運動があることはたしかだが、その後の発展、聖火リレーを妨害する行動の激化は問題が単にチベット人民の抗議であるだけでないと疑わせるものだった。中国政府の報道は当然中国を正当化するものだったし、反中国の情報は中国の横暴を攻撃するもので誇張されていて全面的に信用することができない。これらの対立する情報のいずれかを全面的に信じて、他をすべて虚偽と否定することはできず、さまざまな報道を参照し、自ら判断して可能な限り真実を読み取る必要があると思うが、そのような努力がなされずに、中国の横暴を攻撃する言葉ばかりが氾濫し、「チベットに自由を」という叫びは中国バッシングのカンパニアとして展開されているのではないかと疑わせるものだった。
チベット問題について日頃漠然としか考えてこなかった私はこの問題について容易に発言できなかったが、反中国派は時の流れに乗って、日頃、自由と人権を重視し、日本の侵略戦争に反対する発言をしているのに、いま、中国の暴虐に対して沈黙しているのはなぜかと攻撃してきた。これに対して答える必要があり、とりあえず次のように書いた。
私はチベット問題についてはほとんどなにも知らない。いま、<チベットに自由を>と叫んで<騒ぎ>を拡大している人々の多くも、同様だろうと思う。アメリカは<自由>とか<人権>を旗印にしてアフガンからイラクへと戦火を拡大し、現地住民の反撃により進退きわまった感がある。<人権外交>はアメリカの戦略なのだろう。いま、アメリカは中国との経済交流を深め、アメリカ経済は中国なしには成り立たぬ状態だ。しかしアメリカには潜在的な対立者として、にわかに台頭しアメリカの位置を脅かす中国に反感や敵意を強めている勢力が根強く存在する。それは日本でも他のヨーロッパ諸国でも同様だろう。暴力革命で独立を実現し、急激な発展をとげた多民族国家中国は、民族問題だけでなく貧富の格差をはじめ多くの矛盾をかかえ、政治的腐敗や権力主義的支配なども目立っている。しかし、中国はそれを克服するために懸命の努力をしている。私は中国がこれらの矛盾を克服して世界の繁栄と平和に寄与することをのぞむものだ。この観点から、私は北京オリンピックの成功を強くのぞむのだ。しかし、中国の発展とオリンピック成功を望まぬ勢力がある。それが中国のアキレス腱ともいうべき民族問題に火をつけたのだと思う。中国とチベットの間には多くの矛盾があるだろう。しかし、いま、チベットの住民は必ずしも中国と敵対関係になることを望んではいないだろう。ダライラマ自身がいまの<騒ぎ>を歓迎しないと言明している。それが本音かどうかはわからないが、いまの混乱を収拾して、中国との対話によって平和的に問題を解決することを望んでいると述べている。中国もまたダライラマに対する不信はぬぐえないにしても、そのほかに解決の道はないと思う。そのためにはダライラマの立場と同時に、無視されがちな中国政府の立場も理解されなければならないと思う。その観点から、私はできるだけ中国政府側の見解をつたえる努力をするつもりだ。 ( 4月10日(木) 14時42分 )
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参考のために私が掲示板に掲載した記事を紹介する。
東京新聞 2008年3月19日 07時10分
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008031902096556.html
【アバ・チベット族チャン族自治州(中国四川省)=平岩勇司】中国のチベット政策をめぐる暴動で、多数の死傷者が出たというアバ県がある自治州に十八日、入った。抗議行動はアバ県の近隣にも拡大。人民解放軍の部隊が次々と投入され、民衆を威圧するように一帯に展開している。
「ちょっと、車に入ってくれ」。ここは、成都から約二百キロ北西にある自治州南部の理県。アバ県から帰ってきたという運転手は、状況を尋ねる記者を車内に招き入れ、「アバは戦場だった」と小声で語る。
「民衆は役所に投石して商店や車に火を付け、中国国旗を引き裂いた。警察の発砲でリーダーの僧侶数人が射殺され、警察官も何人か死んだ」
アバ県では十六日、チベット仏教僧侶や民衆数千人が「チベット独立」「ダライ・ラマ十四世帰還」などと叫び、県庁舎を包囲。治安当局は催涙弾を放ったが、民衆らを解散させられず、発砲に踏み切ったようだ。自治州北部ではアバ県以外に紅原県、マールカン県など五カ所以上へ抗議行動が広がっている。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008031902096556.html
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チベット問題についての記事は事実をつたえるより記録者のイデオロギーを示す場合が多い。そのなかでこの記事は具体的でかなり客観的なように思われる。
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西蔵の歴史はこう主張する(1)苛酷な封建農奴制
「人民網日本語版」2008年4月1日
西蔵(チベット)の拉薩(ラサ)で発生した極少数の不法分子による暴行・破壊・略奪・放火に対して、偏見を持った海外のメディアと人々は、西蔵の人権状況を、事実を顧みずに非難している。だが西蔵の歴史を振り返れば、ダライが統治していた封建農奴制時代の西蔵で、政治がいかに腐敗し、いかに遅れた生活が送られていたかがわかる。
封建農奴制時代の西蔵では、人口の5%に満たない官僚・貴族・上層寺院が、ほぼ全ての土地・草原・山林と大部分の家畜を所有し、人口の95%以上を占める農奴や奴隷に対して非常に残酷な統治を行っていた。重い労役と厳しい税金のほか、目をつぶしたり手や足を切り落としたりする残酷な刑罰もあった。封建農奴制時代の西蔵において「人権」とはすなわち官僚・貴族・上層の僧侶の人権であり、農奴の持ち主は農奴の賃貸・譲渡・担保化・贈呈をする圧倒的な権力を握っていた。これら血まみれの歴史は、旧時の西蔵における封建農奴制社会の罪悪の本質と劣悪な人権状況を告発し、封建農奴制のもとで多数の農奴が人権を完全に剥奪され世界の最下層として生活していたことを証明している。(編集MA)
http://j.peopledaily.com.cn:80/2008/04/01/jp20080401_86157.html
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チベット問題はチベットと中国の歴史の中で、また世界の国々との関係の中で広い視野に立ってとらえる必要があると思う。
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869.“長野の聖火リレー 成功を”
名前:伊豆利彦 転載 日付:4月10日(木) 9時19分
NHKニュース 4月8日 17時24分
JOC=日本オリンピック委員会の竹田会長は、聖火リレーが激しい妨害にあっていることに懸念を示すとともに、長野での聖火リレーが成功することに期待を表明しました。
これは、各国のオリンピック委員会の集まりである「オリンピック委員会連合」の総会に出席しているJOCの竹田会長が、北京でNHKのインタビューに答えたものです。この中で、竹田会長は「選手たちはオリンピックで頑張るためにトレーニングを続けています。妨害行為がオリンピック開催に影響を与えなければと思います」と述べ、激しい妨害行為が続くことに懸念を示しました。また、今月26日に予定されている長野市での聖火リレーについて、竹田会長は「長野の市民は98年の冬のオリンピックの感動を北京へつなげたいという思いがあるはずです。こうした市民の感情が壊されないよう聖火リレーが成功することを望みます」と述べ、長野での聖火リレーが成功することに期待を表明しました。
http://www3.nhk.or.jp/news/k10013430351000.html
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世界の一般市民は伝えられる中国の弾圧に抗議する気はあっても、オリンピックが成功することを望んでいるのではないか。
チベット問題は民族問題と人権問題という難しい問題をかかえているが、中国政府も、ダライラマも、対話による平和的解決を望んでいる。結局、これを契機に、新しい両者の関係が切り開かれることを望むまずにはいられない。
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去年の秋、講演のため韓国を訪ねた前後から体調をこわし、この通信の発行もずいぶん遅れてしまった。
韓国講演のテーマが「帝国主義と文学」という大きな問題だったこともあるだろう。ストレスで胃潰瘍になり、そのためにいろいろの変化があらわれたのであるらしい。
ここしばらく、できるだけ楽をしてすごし、いくらか、健康を回復したように思う。
いろいろやっておきたいことがあるが、できるだけ休養をとりながら、ゆっくりと生涯のおわりの日々をすごしたい。
では、皆さん、お元気でお過ごしください。


Comments
しばらく発行がなかったので、どうしたのかと思っていました。少しはお休みになれたでしょうか。ホームページの運営等でも気を使われるでしょうが、お大事になさってください。
Posted by: 真理子 | 04/17/2008 at 04:56 PM