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08/29/2009

第294号 金大中元大統領の国葬と日本の総選挙

日々通信 いまを生きる 第294号 2009年8月29日

金大中元大統領の国葬と日本の総選挙

 金大中元大統領の国葬に2万人の国民が参列した。盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領が亡くなってから3ヶ月もたっていない。盧武絃前大統領は国民葬だった。国民葬と国葬はちがっていて、これまで国葬が行われたのは在職中に暗殺された朴正煕大統領だけで、元大統領の国葬ははじめてのことだという。

 注目を集めたのは北朝鮮からの弔問団だ。李明博大統領と会談し、金総書記のメッセージを伝えた。金大中元大統領は太陽政策で南北融和を推進し、平壌を訪ねてはじめて南北首脳会談を行い、南北統一の気運を促進した。元大統領の国葬に北朝鮮が弔問団を派遣するのは当然だが、韓国政府がこれを受け入れ、さらに大統領との会談が実現したのは、この国葬を契機に南北関係が好転するのではないかという期待を抱かせるものだ。

 北が核実験を強行し、ミサイル発射を行ったため、北に対する援助は無駄に大金を浪費するものだったという、元大統領の太陽政策に反対する声も強く、それが李明博大統領を生んだのだったが、元大統領の死は、韓国の民主化と同胞としての南北朝鮮の統一実現のために、何度も生死の境をくぐり抜けた偉大な生涯に対する韓国民の熱い敬慕の心を呼び起こし、遺志を継ごうという思いを強めたと思う。

 クリントン元大統領の平壌訪問と金総書記との会談、訪朝した韓国の財閥、現代グループの玄貞恩(ヒョン・ジョンウン)会長の金総書記との会談は、米朝、南北の関係に活路を開くものと期待されていた。この流れは金大中元大統領の死によっていっそう強められることになったと思う。すでに北朝鮮には中国を模範として改革開放の道をさぐろうとする動きが強まっている。金総書記は米朝国交回復を実現し、改革開放によって経済的繁栄をはかり、南北統一に道を開きたいのであろう。金元大統領も北朝鮮がこのような道をあるくことを支持し、南北統一の実現を目指したのだと思う。

 核実験について言えば、オバマ大統領が原子爆弾投下の責任を認め、核兵器廃絶を目指すと言明したことで、核兵器反対の運動は新しい発展を遂げた。核兵器保有国は核兵器拡散阻止を求め、非保有国は核兵器廃絶を求める。かつて旧ソ連や中国が核実験を行ったとき、いかなる国の核実験にも反対の声がひろがり、日本の核兵器反対運動は分裂させられた。しかし、アメリカだけが核兵器を独占して、世界を支配するということが正当なことであろうか。事実問題として、対等平等を求める他国の核兵器保有を阻むことは出来なかった。いまは米中ロ英仏の5カ国、さらにインド、パキスタン、イスラエルが保有し、いま北朝鮮も保有しているようだし、イランも保有しようとしている。北朝鮮の核保有を禁じるためには、核の脅威がないことを信じさせなければならない。自分は強力な核兵器を保有するが、未所有国の保有は禁ずる、核実験も経済制裁するということは未所有国を納得させられないだろう。

 オバマ大統領の核兵器廃絶を目指す宣言は核兵器拡散に反対する前提となる。日本の場合、北朝鮮の核実験に反対するためには、アメリカの核の傘からの離脱が前提となる。米朝間には休戦協定はあるが平和条約は結ばれていない。両国間の不信は深刻で、この不信を取り除くことは容易ではない。日本では北の脅威だけが強調されるが、北からすれば日本やアメリカはさらに大きな脅威であろう。日本と韓国には強大な米軍が駐留し、何か事があると制裁で威嚇し、北を目標とする軍事演習をする。このような状態がつづく限り北の不信は解けず、抑止力としての核兵器に依存しようとすする。南北和解はこうした緊張を除去し、北東アジアの平和を実現するための基本条件となる。金大中元大統領による南北首脳会談と太陽政策の実現は北東アジアの平和に向けての第一歩であった。現に金大中・盧武絃の時代には南北関係は好転し、朝鮮は6カ国協議に参加した。この時期、韓国民は戦争の脅威を感じなかったのではないか。

 李明博大統領が就任して、太陽政策が批判され、米韓共同演習が強行され、南北関係が急速に悪化し、アメリカもオバマ新政権が北が期待したほど積極的に米朝関係の改善をはかろうとしなかった。北が核実験に踏み切り、六カ国協議からの離脱を言い始めたのはこのような状況においてである。何の理由もなしに北が態度を悪化させたのではない。冷静に北の主張に耳を傾ければ問題解決の道は明瞭に示されている。

参照 北朝鮮内閣機関紙「南北関係は最悪の状態」
http://japanese.yonhapnews.co.kr/northkorea/2009/08/14/0300000000AJP20090814003100882.HTML

 北は米朝関係の改善と国際的支援を求めているが、同時に対米従属を拒み、現体制の維持を求めている。この点で対米従属一辺倒の日本や韓国とちがった道を歩いているのだ。いかにしてアメリカの軍事力に対抗し、国交回復と国際的支援を実現するか。クリントン政権の時代に開かれた米朝和解の道はブッシュ政権によって閉ざされたが、ブッシュ政権もその末期には米朝和解に向けて動かなければならなかった。オバマ政権の成立は米朝間に新しい時代を開くものと期待されたが、李明博政権が成立し、世界経済の崩壊でオバマ政権の対北政策は立ち遅れた。北の経済は切迫し、総書記の健康問題や後継問題もあり、米朝和解を急ぎ、核実験やミサイル発射などの瀬戸際作戦で、国際的な非難や制裁を集中された。

 この緊張激化の政策はクリントン元大統領の訪朝、金総書記との会談を契機に一変した。南北関係も現代グループの玄貞恩(ヒョン・ジョンウン)会長の金総書記との関係を契機に急速に変化した。金大中元大統領の国葬に北の弔問団が派遣され、李明博大統領に関係改善を求める金総書記のメッセージを伝えたことは、南北首脳会談に道を開くのではないかと期待されている。金大中元大統領の南北首脳会談によって始まった南北融和の発展と統一への展望は、元大統領の国葬で新段階を迎えたのだ。もちろん、その道は決して平坦ではないだろうが、さまざまな紆余曲折があるにせよ、必ず実現しなければならない道である。

参照 内憂外患 辺真一 北朝鮮はなぜ豹変した
http://news.www.infoseek.co.jp/special/j-is/commons0908_002.html

 金大中元大統領といえば私が何よりも先ず思い出すのは、1973年8月、東京のホテルから韓国中央情報部によって拉致された事件だ。行方が分からなかった元大統領は危うく死を免れた事件である。何度か死刑を宣告されながら、命をかけたたたかいの日々を送った。97年にようやく大統領に当選したが、苦難に満ちた生涯は韓国の民主化運動の歴史を体現している。

 当時の韓国はおそろしい国だった。当時の韓国を思えばその変化の大きさには驚かされる。1945年夏を境に日本は大きく変ったが、中国も変わり、韓国も変わった。米国とはげしく戦ったヴェトナムも今は改革開放の道を歩いて驚くべき変化を遂げている。北朝鮮もまた変わって行くに違いない。金大中元大統領の国葬は戦後のアジアの歴史を思い出させ、人々にその遺志を継ぐ決意を呼び起こしたと思う。

 世界の歴史の転換を思わせるこの8月は、日本でも政権交代をかけた国会選挙の月だ。民意を問うこともないままに次々と内閣が変わり、いよいよ選挙と思われた麻生内閣が成立したが、これもまた一年も先送りされ、任期間際まできてようやく解散総選挙ということになった。いま選挙をしても勝てないというのが選挙を延ばした理由だというから国民を馬鹿にしきった話だが、ますます国民の支持を失い、まったく悲惨な結果が予測される選挙になった。往生際の悪い悪あがきだが、この執念深さがこれまで60年も日本の一党独裁を続けさせたのだろう。

 アメリカが変わり、中国が変わり、韓国も北朝鮮も変わる時代に、日本はどう変わるのか。メディアは政権交代の一色だが、これからの日本が変わりゆく世界でどう変わって行くのかは曖昧で不透明だ。勝敗だけが問題ではない。はっきりした未来の展望を掲げる政党がどれだけ支持を集めるかも、これからの政治にとって大事なことだ。とにかく、明日の選挙に期待したい。

 いよいよ夏も終りだ。今年は異常低温で葡萄もナシも甘みが足りない。そして何より米の不作が心配だ。エコ経済などと騒いでいるが、自然状況の変化が人間生存の土台を破壊している。いま、しきりに心に浮かぶのは、夏目漱石が『虞美人草』の末尾に記した「悲劇は来た」という言葉である。ロンドンで20世紀の第1年を迎えた漱石はギリシャは滅びた。ローマも滅びた。いま、世界に覇を競うイギリス、フランス、ドイツに亡びるときは来ないだろうか。日本の前途が心配だと日記に記した。

 フランスもイギリスもかつての栄光を失い、いま、アメリカが破滅の危機に苦しんでいる。戦争で荒廃したヨーロッパはEUに再生の夢を託し、アメリカは史上初めて黒人大統領を選出して危機を乗り切ろうとしている。日本の再生の夢はどの党に託すことができるのか。何か心もとないがいまの日本に可能性を探るしかないのだろう。

 漱石は第1次大戦の終結を展望して、やまと新聞のアンケートに、日本はあぶないということをしっかり見つめて、それぞれがそれぞれの場所で力の限り努力するしか道はないという意味のことを記した。私も高齢で何もできないが、いま出来ることを可能な限りしていきたい。皆さんもそれぞれにそれぞれの場所で努力しておられると思う。秋が来れば身心も新しくなると思う。お元気でお過ごしください。

 発行者 伊豆利彦
 ホームページ http://homepage2.nifty.com/tizu/

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Comments

力で強制しても真の和解は得られないことは個人対個人と同様、国対国にも言えることですね。管理人さんの論文に大いに賛同します。

Posted by: aki | 10/07/2009 at 10:28 AM

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