第295号 転換時代の困難
> 日々通信 いまを生きる 第295号 2009年10月20日<
発行者 伊豆利彦
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転換時代の困難
鳩山首相は就任後はじめてアメリカを訪問し、日本時間9月22日夜、国連気候変動サミットで、2020年までに1990年比で「温室効果ガス25%削減」を宣言した。ただ、この約束も「すべての主要国の参加が前提だ」と述べ、そのために日本を含む先進国の新たな官民による発展途上国に対する支援として、資金貢献、排出削減についての測定・報告・検証可能な形でのルール作りなどの4つを「鳩山イニシアチブ」として各国に提案した。
(FNNニュース http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00163410.html)
この演説は世界各国の指導者やNGOから歓迎する声が相次ぎ、パン国連事務総長は鳩山首相が掲げた中期目標を「歴史的な誓約だった。新首相は、就任後わずか6日で(国際交渉の)力学を変えた」と称賛した。京都議定書に続く新たな温暖化対策の枠組みを話し合うことし12月の国際会議の議長国、デンマークのラスムセン首相は「日本が発展途上国への支援を約束したことは、交渉の進展につながると期待させてくれるもので、たいへん心強い」と述べて歓迎した。また、これまで先進国の対応を厳しく批判してきた国際的なNGOの1つ、「オックスファム」も、「日本の演説は、数少ない希望の光だ。ほかの先進国の目標の基準を引き上げた」と評価するなど、今後の日本の取り組みに国際社会の期待と注目が集まっている。
(NHKニュース http://www3.nhk.or.jp/news/k10015646471000.html#)
このサミットで、オバマ米大統領は「気候変動の脅威が深刻かつ切迫している」「先進国と途上国の分裂はやめよう」と強調し、12月のCOP15を「気候変動との闘いの重要なステップとすべきだ」と呼びかけた。中国の胡錦濤国家主席は演説で、2020年までに全エネルギー消費に占める非化石エネルギーの割合を15%に高めるとの目標を表明。また、二酸化炭素(CO2)排出量を2020年までに国内総生産(GDP)比で05年の水準より著しく減らす方針を示した。
(毎日新聞 2009年9月23日 東京朝刊 http://mainichi.jp/select/science/news/20090923ddm001030081000c.html)
オバマ大統領は自ら主宰した国連安全保障理事会首脳会合(9月24日)で「核兵器のない世界」を目指す決議を全会一致で採択し、オバマ政権の核軍縮・不拡散戦略を国際社会の責務に引き上げた。理事各国首脳の演説では、核兵器を保有する他の常任理事国も核軍縮への決意を表明した。一方、非核保有国からは、核軍縮の実行を求める声もあがった。
(毎日新聞 2009年9月25日 東京夕刊 http://mainichi.jp/select/science/news/20090923ddm001030081000c.html)
オバマ大統領は、イラク、イラン、朝鮮を悪の枢軸と呼び、アフガン、イラクで泥沼の戦争を続けて国力を消耗し、世界経済危機の震源地となって世界経済に大打撃をあたえたブッシュ前大統領を厳しく批判し、changeを旗印に圧倒的多数の支持を得て、根強い人種差別の壁を乗り越えて大統領になった。オバマ大統領を生んだのは、アメリカがこれまでのやり方ではどうにもならなくなり、破滅の危機に追い込まれていることをアメリカ国民が自覚したからだろう。はたしてオバマ大統領はこの危機を打開できるか。オバマ自身、そのことの困難を誰より強く感じていることが、未来を語る言葉の端々から感じられる。しかし、どんなに困難でも、たとえ不可能だと思われても、生き残るためにはやらなければならない。そんな思いが感じられる。それほどの困難にアメリカは直面している。そして、その困難はアメリカだけでなく、人類が直面する困難で、アメリカだけでは解決できない困難だ。オバマは人類の協力を求める。人種や、信仰、信条の違いを超えた団結を求める。そのためには何よりも先ず自らの責任を明らかにする必要がある。
プラハの演説で、オバマ大統領は米国が「核兵器国として、そして核兵器を使ったことがある唯一の核兵器国として、行動する道義的責任がある」ことを認め、「核兵器のない世界の平和と安全保障を追求する」と、「明確に、かつ確信をもって」表明した。アメリカはイランや北朝鮮の核開発を厳しく批判し、それを阻止しようとしている。しかし、自らは何千発もの核弾頭を持ち、その力で世界を威嚇して覇権を維持しながら、はるかにおくれた後発の弱小国が やっといまごく初歩的な核兵器を開発しようとしているのを経済制裁で押さえつけることができるだろうか。生き残ろうとする彼らは、民族主義を鼓吹し、国民の団結を強め、必死の抵抗を試みるだろう。ブッシュのひたすら武力に訴える政策が破綻したいま、オバマの核兵器廃絶宣言は決して理想主義的空語にすぎないのではなく、どこまで拡散するかわからない核兵器問題を解決するための緊急な現実的課題なのだと思う。
オバマ大統領はノーベル平和賞を受賞した。さまざまな宣言はしてもまだ実績のないオバマ氏に受賞の資格があるかという反論はあったが、オバマの宣言が世界に好感をもって迎えられ、戦争の時代から平和の時代への転換が強く意識されて、新しい可能性へのさまざまな挑戦が始まった。ブッシュ政権の末期には戦争をすればするほど、反米勢力の力を強め、限りない泥沼に世界がはまり込んでいくことが明らかになった。しかし、軍事力で世界を支配する覇権主義の思想が人々に深くしみこんで、平和的に問題を解決するための努力はされないまま、観念的な理想主義だとか人道主義だとかといわれて、軽蔑されてきた。しかし、戦争が世界を破滅させるのだということが明らかになって、平和の可能性が求められなければならなくなったのだ。これはこれまでの常識をくつがえすもので、既得権益にしがみつく旧時代の権力に連なる勢力だけでなく、依然として残っている常識やとの間にさまざまな軋轢を生み、反対勢力を生むことは避けられない。オバマは新しい世界を開こうとして、大変な困難に直面しているのだ。
戦争主義、競争主義、覇権主義は経済の世界でも弱肉強食、優勝劣敗の新自由主義原理が貫かれ、限りなく生産の拡大、利潤の拡大が求められて、一方に巨大な富の蓄積、一方に途方もなく膨大な貧困を生み出した。世界で最も富める国は最も悲惨な貧困の国だったのだ。アメリカの貧困についての指摘はこれまでも数多くされてきたが、まさかと思い、政治的誇張だろうと思ってまともに考えることをしなかった。日本人の大多数はアメリカを理想の国のように思い、ひたすらアメリカのまねをしてきた。特に小泉内閣は「改革」を旗印に、アメリカ模倣の貧困化政策を強行し、医療その他の社会福祉予算、教育予算を削減して、世界屈指の低福祉国につくりあげた。小泉のあと、参議院選挙で大敗したにもかかわあらず、安倍、福田と国民の信を問うことなしに政権のたらい回しをつづけ、麻生にいたっては選挙をおこなう期待のもとに総理に就任したにもかかわらず、経済危機対策のために政治の空白をつくってはならないという屁理屈で、一年間も政権にしがみついた。国民の支持がないことが明らかなのに、いま、選挙をしては敗北するという理由で解散総選挙を回避しつづけるとはなんと厚顔無恥なことだろう。国民の支持なき政府が居すわりつづけることこそ、政治の空白をつづけることだった。国際会議にもさかんに出席したが、国民の支持のない、醜い政権は馬鹿にされるばかりで、まともに相手にされなかった。こうして、任期ぎりぎりまで醜態をさらしつづけた自民党政権はあきれはてられ、目を覆うような惨敗を喫した。こうして、戦後60何年もつづいた自民党政権は崩壊した。その再生は不可能だと思われるほどの惨敗である。
アメリカではchangeの旗をかかげたオバマが大統領に当選し、日本でも同じくchangeを叫んで鳩山内閣が成立した。選挙中の私は既成政党に対する不信から、民主党に対してそれほどの期待はしていなかった。マニフェストなるものも、これまで選挙用に国民を欺瞞するキレイゴトばかりが並べられていたので、あまり注意を払わなかった。何より政権交代ばかりを主張する右左ごった煮のような政党だと思い、自民党と代わりばえしないものと思っていた。しかし、圧倒的な国民の支持を得て政権を獲得した鳩山内閣は、想像以上に新鮮で活力に満ちていた。CO2削減についても冒頭のように積極的な提案で国際的な指導性を発揮した。アメリカに対しても在日米軍の再編について、普天間基地の移転について、日米の対等な関係を開きたいと主張するなど、これまでの対米従属一辺倒の自民党政権とは異なった交渉をはじめようとしている。これがどれほど本物かはまだわからないが、やはり、新しい時代がはじまったという思いは禁じ得ない。そしていままでの自民党の政治がいかにひどいものだったか、官僚支配がいかに根深いものだったかを痛切に思い知らされている。ある意味では戦後に軍事政権の旧悪が続々と曝露されたときと同様な思いさえする。首相以下、自民党の閣僚は官僚に依存してきたのだ。戦前から戦後にかけて自民党政府はアメリカに依存し、官僚に依存して、自立した政治をしてこなかった。閣僚は政見演説や答弁をすべて官僚に依存し、ときとしては原稿を読み違えたりして平気だったのだ。世襲の無能大臣でもつとまったのは彼らがひたすら官僚に依存して、ただ、ちまちました権力争いばかりしてきたからだ。
平和を強調するオバマ政権が、イラクからの撤退とひきかえにアフガンに軍隊を増派し、ヴェトナム戦争と同様な泥沼に落ち込んでいるといわれる。日本の要求に対してもまともな対応をするかは疑問だ。こうして新政府はいよいよ本当に試されるときを迎えた。本当のことをいえば、鳩山内閣がこの困難を乗り越えられそうもないという不安を感ずるが、いまはただその進展を望むばかりである。
アメリカでも日本でも、新しい時代の展望が開けて、さわやかな秋を感じる。私の体調も去年に比べればはるかによくなったようだ。これから少しずつ元気を出して書いて行きたい。体調を害して発行が途切れていた間にまぐまぐ経由のメルマガが送信できなくなった。幸いなことにEZBBS.NET サービスのEマガジンの復刊ができたので、これからは新規読者の受け付けはEマガジンから行う。
去年の9月に始まった世界経済危機は一年たったいまもまだまだ終わりそうにない。この危機の時代にアメリカではオバマ政権、日本では鳩山政権がchangeお旗印に発足したが、それぞれ困難に直面して苦戦している。世界はどうなるか。癸卯と同時に不安も大きい。皆さんのご奮闘を期待します。


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