第306号 世界最大級の地震
「日々通信」いまを生きる 第306号 2011年3月15日
発行者 伊豆利彦
ホームページ http://homepage2.nifty.com/tizkotosimo
世界最大級の地震
テレビは地震の情報一色だ。中東の危機も、その他のニュースも、一言も報じられない。天気予報も伝えられない。戦争が始まれば、戦争一色になるのだろう。私の住む地域は、地震発生とともに停電して、深夜の1時過ぎまでつづいた。テレビも見られず、電話も不通で、日が暮れると暗闇になった。
地震は長くつづき、揺れもおおきかったが、私の家は地盤がしっかりしているので、揺れによる被害はなかった。停電でテレビも見ることができず、インターネットも使えないので何もできず、暗闇の中で状況がまったくわからないのが不安だったが、いまに終わると気楽に考えて時間がたつのを待った。
しかし、次第に暗くなり、本も読めなくなると、この日に限って妻が横浜に出かけているので、眼も耳も奪われて、何が起こっているのか分からないのが不安になった。事情を知ろうと、子供や友人に電話をかけたが、固定はもちろん停電で通じないし、携帯も通じなかった。これは横浜も、東京も、壊滅状態になっているのに違いないと思われ、急に不安がひどくなった。
高齢で脚も不自由な老妻は、暗い寒空の街をうろついてどう過ごしているのか。暗闇の中で不安ばかりが大きくなり、最悪の事態をいろいろに想像した。横浜の町が壊滅し、電車の不通が何日もつづいたらどうしよう。瓦礫に埋もれた様子は想像しなかったが、何もすることができないままに、不安は大きくなるばかりだった。
深夜になって停電が復旧し、テレビを見ることができたが、教育テレビだったらしく、安否情報ばかりがつづき、なかには横浜や横須賀に住む人への問い合わせもあって不安をかきたてた。番組を切り換えると、今度は各地の状況が断片的に映し出されるばかりで、全体の状況がわからない。横浜がどうなっているかがわからない。しかし、次第にこの地震は東北が主で、東京や横浜の被害はそれほどでもないということがわかって来た。電車も東急や小田急、相鉄などは次第に開通しているようだったが、京急は運転見合せということだった。帰宅不能者のための避難所についても報じられて、あまりうろうろしないで、避難所で一夜を過ごせればいいと思うようになった。すでに時間は午前2時に近く、とても今夜はかえって来ないと思うと、かえって安心するような思いだった。
老妻からの連絡は翌朝7時ころだった。駅に隣接する東急ホテルに避難して、暖房もあり、ソファーもあって、比較的快適に過ごしたということだった。電話が不通で、連絡できなかったと言われ、よかった、よかったと喜びながら、何か気が抜けた空虚さを感じた。一晩の心配はすべて無駄だったのだ。被災者のことを思えば申し訳ないが、それでも、私たちの生活がどれほど電力に依存しているかを思い知らされた。
現代文化は電力文化だ。それは便利だが意外に脆い。テレビも新聞も地震の被害一色だが、主として災害の実態、人命の被害に集中して、この災害が日本の未来をどう変えるかを考える番組はなかった。
NHKばかりでなく、民放も同じように被害状況の報道ばかりがつづいたが、やがて福島の原発事故について報じられるようになり、チェルノブイリの事故に次ぐような大事故だということが知らされた。しかし、それも事故の実態と物理的な説明ばかりで、日本の経済や国民生活にどんな意味を持つかについての論評はなかったが、15日になって株価の大暴落が伝えられた。福島の原発事故は日本経済を破滅させるような大事故なのではないか。
14日から計画停電がはじまり、電車も大幅に運休となって国民生活は大混乱に陥った。乗車制限で各駅は大行列ができた。勤務を休むものも多く、従業員が集まらないために休業したデパートなどもあるらしい。スーパーの売り場はその多くが空になっていた。手当たり次第に買いあさって食品の多くが売り切れになっていた。戦争中の「買いだめ」が思い出され、計画停電は4月末までつづくというから、日本はどうなるか暗澹たる思いである。
地震国日本で原子力発電は危険だと主張して、私たちは反対運動をつづけたのだが、自民党政府や官僚、御用評論家たちはその安全を主張して、反対は非科学的だとまで罵った。チェルノブイリやスリーマイル島の事故のあとで、一時控えられたが、<喉元過ぎれば熱さを忘れる>で最近は前にも増して原発依存の傾向を強めている。日本でも発電量の30%を依存し、フランスでは80%依存しているという。さらに中国その他の新興国では原発の建設ラッシュの感がある。いま、相次いで壊滅し、日本経済に破滅を招く大打撃を与えている福島原子力発電所の現実は、日本だけでなく世界に向けての警鐘ではないか。
警察庁などによると、15日午後3時半現在、地震による死者は2722人、行方不明者は3742人となっている。一方、避難生活を続けている人は46万人に上っていて、不足しがちな水や食料品、毛布など救援物資の輸送が急務となっているという。今年は例年に増して寒さがつづく。東北はことに寒さがきびしいようだ。あらゆる苦難に耐えて生きる努力をつづける被災者に敬意を表する。
中東の騒乱は拡大し、石油の価格は急騰している。世界はこれまで経験したことのない激動の時代を迎えている。いまは嘆いている時ではない。この苦難をの時代を生き延び、新しい時代をきりひらいて行きたい。
新しい事態が次々次に起こり、書きかけた文章が時代後れになって、3カ月半も通信を発信できなかった。この未曾有ともいうべき歴史的現実の波濤を身に浴びて、わが生涯の最後の時期の思いを、できるだけ頻繁に発信して行きたい。みなさんもそれぞれの場で、さまざまに感じて過ごされていると思う。みなさんの思いをメールや掲示板にお寄せいただければ幸いだ。大変な時代だが、これが新しい時代を生み出すのだと思う。
この激動の時代に、過去の文学や戦時下の経験が新しい意味をもってよみがえって来る。これが何かの役に立てば幸いだ。ようやく春らしくなって来た。いましばらく、私も通信を発行し、漱石論を書き続ける度量をしたい。


Comments