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11/23/2012

第314号 今を生きる


    日々通信 第314号 20012年11月23日                    あ
                         
 発行者 伊豆利彦
 ホームページ http://homepage2.nifty.com/tizkotosimo

今を生きる

11月10日が私の誕生日だった。私は86歳になり、平均寿命をはるかに超えた。確実に死は近づいてくる。武田泰淳の小説に死を前にした作中人物が「自分が死んでもあなたたちが生き残ているというのが不思議だ」という意味のことを言う。私も自分の死後に世界が続き、自分はそれを知ることができないということを不思議に思う。そして、あらためて自分と世界の関係について考える。

 ともすれば私たちは自分を世界の中心と考え、自分の力で世界が動いていると考えがちだ。しかし、世界は決して自分の思うようにはならない。世界どころか、自分自身すら自分の思うようにはならない。戦争の時代に生きた私たちの人生は時代の大波に翻弄されるばかりで、自分の意志で自分の生涯を決することはできなかった。
                                         
 アッツ、サイパン、グアム、硫黄島と次々に玉砕し、ガダルカナル、フィリピン、沖縄と日本軍は追い詰められて、本土決戦の切迫が伝えられていた。私は学校の寮にいて直接被弾はしなかったが、五月二十五日の空襲で我が家は焼失した。家族は福岡の母の実家を頼って疎開していた。

 つづいて大阪、横浜、神戸、そして地方の県庁所在地がつぎつぎに爆撃された。やがて東北の太平洋沿岸が艦砲射撃を受け始めた。日本が敗けるとは思わず、この世の終わりがくると私は思った。私は病気を理由に休学し、勤労動員を免れ、友人たちが動員先に出勤したあとは学校の寮でごろごろして暮らし、寮と福岡の家族の疎開先を往ったり来たりして過ごした。このころ私は『方丈記』に熱中していた。『方丈記』に記された火事や飢饉の有様は、まさにいま目の前に広げられる戦時下の現実そのものに思われた。

 当時、日本の若者はみな軍国主義だったというのは嘘だ。文科系の学生に徴兵猶予がなくなると、みな一斉に理科系に志望を変更した。兵隊になって国のために死のうと思う者は少なかった。私は戦争から逃げたいと思ったが、戦争は向こうから迫ってきて、やがて戦争で死ぬことを覚悟しなければならなかった。 

 やがて死ぬと覚悟して生きる私は、一切は無という思想に支配されていた。しかし、私は生きている。迫りくる死に向かって、刻々の生を生きている。私は短い生を力の限り鳴く虫の声に心を打たれた。無心に、力の限り美しく咲く花の生命に心を打たれた。私も死に向かって生きるこの刻々の生を大事にして、力の限り生きようと思った。この時の思想は今も生きて、今の私を支えている。この通信の「今を生きる」という名にそれは現れている。いま刻々に迫る死を見つめて生きる私に、戦時下を生きた十代の心がしきりによみがえる。

 敗戦は私に新しい世界を開いた。家もなく、食もなく、夢も理想も希望もなくて、私たち廃墟のまちをさまよい、しかし、私たちは生きようとして力をつくした。一切が無であるような、どんな明日がくるかわからないような戦後の現実が、私たち自身で、私たちが生きる、新しい平和な世界を作り出さなければならないという考えを生んだ。
戦後67年たったが、この思想は私の生涯をつらぬいて変わることがない。

 生を思う私は、一切は無だという思いにつきまとわれながらも、死にいたる刻々の生を力をつくして生きようとした。一切は無だと思う心は信ずべき何者もなく、ただ刻々を生きる生の力で新しい世界を作り出していかなければならなかった。この思想がいまの私を支える。戦争末期から戦争直後にかけて、暗い虚無の世界を生きた私を支えた「刻々のいまを生きる生の思想」が、迫りくる死を見つめて生きるいまの私を支えている。

 いま、アメリカは世界を安定させる力を失い、台頭する中国は「反日」デモが政権をゆるがしている。日本もいよいよ国会が解散したが、自民党の新総裁安倍氏といい、都知事を辞任して新党を結成した石原氏といい、日本維新の会を発足させた橋下氏といい、右翼的な人物が日本の政権を握ろうとしている。急速な日本の右傾化は避けられない時代だ。

 世界はどこへ行くか。日本はどこへ行くか。10年後の日本はおろか、5年後も、3年後も予測できない時代、お先真っ暗の時代だ。不況が長く続き、回復の兆しは見えない。失業者が増え、低賃金で前途が不安定な非正規雇用が増えている。路上生活者が増え、生活保護受給者が増えている。自殺者は年々3万人を超え、特に若い世代の自殺者が増えている。あらゆる「美しい理想」はみな虚偽だと述べた啄木の「時代閉塞の現状」の言葉が、今に生きる思想として、なまなましくよみがえってくる。

 かつて近世文学研究者の広末保さんが連句の精神を「起承転々」という言葉で語られたのを聞いたことがある。世界の行方を知らず、自分がいつまで生きるか、どこへ行くかも知らずに、ただ、いまの刻々を生きる私は、結論なき刻々の私の思いを書き記すtwitterが自分にふさわしい表現の場だと思う。文末にtwitterに記した言葉を再録する。お読みいただければ幸いである。

 パソコンが壊れて四苦八苦した。11月10日に発信するつもりのこの通信も今日まで遅れた。急に寒さがやってきた。風邪をひかぬよう、身体を大事にしてお過ごしください。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
twitter再録
11月20日
 民主党が崩壊して、自民党の最右翼安倍新総裁は次期首相気取りだが、今の日本崩壊の因は自民党にあるのではないか。マスメディアはさらに右翼で嫌中の石原前都知事と橋下大阪市長の結びつきを第三極としてもちあげ、民主にも自民にも反対の国民の間に支持が拡大している。日本の未来はどうなるか。

11月20日
 小沢が起訴され、鳩山内閣が崩壊させられて、民主党はひたすら分裂解体の道をたどった。民主党の崩壊は、政権交代を求めて急造された寄り合い所帯という弱点のためでもあるが、対米従属を弱めて、アジア共同体を志向する動きを嫌ったアメリカの意向があったと思う。

11月20日
死刑の判決を受けた幸徳の微笑を「国民新聞」は「悪魔の微笑を浮かべた」と伝えた。幸徳らは極悪無道の犯罪人に仕立て上げられ、「正義の法」によって殺されたのだ。小沢元民主党代表は無罪になったが、マスメディアによって悪党小沢のイメージを作り上げられ、政治的に利用された。

11月20日
戦争の時代もまた「美しい言葉」氾濫する。「正義人道」のため、「平和」のためでない戦争はない。啄木が「時代閉塞の現状」を書いたのは「大逆」事件の最中だった。国家は正義と人道のために、幸徳らを検挙し、投獄し、絞殺した。

11月17日
石原は尖閣問題で日本に破滅的大打撃を与えた張本人だ。この暴走右翼が橋下と結びつく。この右翼連合を日本のマスコミは第3極の大連合などと持ち上げている。日本はどこへ行くか。何の希望もない今度の選挙が破滅への転換点になるのではないか。

11月17日
解散総選挙だ。うつくしい言葉が氾濫する。そして、それは皆ウソだ。啄木の「いっさいの美しき理想は皆虚偽である!」と述べた「時代閉塞の現状」が、いまを撃つ言葉のようによみがえる。

11月14日
一葉の文学が今も人の心を打つのは、人間を元来は同じ子供だったとく大きな平等感で描いているからだろう。。オバマ大統領も野田総理も石原都知事、橋下大阪市長も、どんな子供時代を送ったのか。死のときが迫って、しきりに子供のころを思い出し、人間はみな同じ子供時代を持ったのだと思う。

11月14日
誰にも子供のころの記憶はある。誰もが赤ん坊であり、幼い子供だった。樋口一葉の「にごりえ」で、銘酒屋の女が<誰も子供のころには、お菓子とお札のどちらをとるかと言われては、きっとお菓子に手を出したのに>と述懐する。生まれるときは誰もが同じように生まれるのに、やがて大変な懸隔ができる。

11月14日 伊豆利彦 伊豆利彦 ‏@xyztiz
子供のころをしきりに思い出す。一番古い記憶は何歳のころのことだろう。祖母の家が少し離れたところにあって、西日をさける簾を巻き上げて、 顔を出した祖母が利ちゃんなあといったのを覚えているような気がする。私の家は、私が3歳のころに移転したから、それ以前の記憶にちがいない。

11月12日

パソコンが壊れて苦労した。新しく発売されたwindow8に買い換えたが、はじめは勝手がわからず戸惑った。大分慣れたが、まだ困ることも多い。慣れてくればいりろ便利だ。window95からはじめてここまで来た。私にはこれが最後の機種になるのだろうと思われるが、できるだけ頑張りたい。

11月10日
日本は朝鮮・中国を侵略し、「近代化」を実現した。西欧の文明諸国は、アジア、アフリカ、中近東の諸国を侵略して、繁栄を実現した。日本はそのあとを追ったにすぎないが、中国はその犠牲になった。中国の恨みはアヘン戦争以来、「先進諸国」の犠牲になって侵略され続けて来たことだという。

11月2日
日本側は「反日デモ」激化を「反日教育」の結果として、ひたすら中国側の責任にしている。中国の若い世代は侵略された悲惨な歴史を忘れず、日本人、特に若い世代は日本の中国侵略の歴史を知らずに、いたずらに愛国を叫び、反中の声をあげている。日中関係はこれからどうなるか心配だ。

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Comments

Sometimes you may forget to log out safely and this can be a very hard thing to do. A new beginning and a chance to make good on all those resolutions you failed to follow through with last year. " George Samuel Bronk, 23, used profile information from Facebook to hack into women's e-mail accounts, steal nude images of them, and even blackmail them.

Posted by: how to hack facebook account | 07/02/2015 at 12:22 AM

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Tracked on 11/23/2012 at 08:19 PM

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