鎌倉アカデミア 夏目漱石 新しい人間とモラル 1997年9月9日 伊豆利彦
漱石の生きた時代
出生1867年(慶応3) ペリー来航1853 (嘉永6)幕末維新動乱の時代 近代化の洪水
死亡1916年(大正5) 第一次世界大戦1914~1918 ロシア革命1917年
没後81年 英国留学1900年~1903年☆20世紀の初頭 ◆100年の後 ◆維新後50年
動乱の時代 西南戦争 自由民権 憲法発布 日清戦争 日露戦争
義和団事件 ボーア戦争 日英同盟 第一次世界大戦
[1]「マードック先生の日本歴史」(1911 年3 月)
1)「維新革命と同時に生まれた余から見ると、 明治の歴史は即ち余の歴史である」自分にとって至極当たり前の日本の歴史が、西洋人であるマードック先生には極めて驚くべきものだった。
[明治の日本を西洋人の眼で照らし出し、日本の近代をもう一つの眼で見る。]
2)「歴史は過去を振返った時始めて生れるものである。悲しいかな今の吾等は刻々に押し流されて、瞬時も一所に彽徊して、吾等が歩んで来た道を顧みる暇を有たない。吾等の過去は存在せざる過去の如くに、未来の為に蹂躙されつつある。吾等は歴史を有せざる成り上がり者の如くに、ただ、前へ前へと押されて行く」
3)「財力、脳力、体力、道徳力、の非常に懸け隔たった国民が、鼻と鼻を突き合わせた時、低い方は急に自己の過去を失ってしまう」◆我等の二つの眼は「二つながら、昼夜ともに前を望んでいる。そうして足の眼に及ばざるを恨みとして、焦慮アセリ に焦慮アセツ て、汗を流したり呼息イキを切らしたりする」「恐るべき神経衰弱はペストより劇ハゲしき病毒を社会に植付けつつある」
4)「夜番の為に正宗の名刀と南蛮鉄の具足とを買うべく余儀なくせられたる家族は、沢庵の尻尾を噛って日夜齷齪するにも拘わらず、夜番の方では頻りに刀と具足の不足を訴えている」
5)「吾等は渾身の気力を挙げて、吾等が過去を破壊しつつ、斃れるまで前進するのである」
6)「吾等は吾等の現在から刻々に追い捲られて、吾等の未来を斯の如く悲観している」
[2]◆◇漱石と英国 漱石における東洋と西洋 帝国主義の時代多元論
A 文学論序
帰朝後の三年有半もまた不愉快も三年有半なり、 されども余は日本の臣民なり。 不愉快なるがゆえに日本を去るの理由を認め得ず。 日本の臣民たる光栄と権利を有する余は、 五千万人中に生息して、 少なくとも五千万分一の光栄と権利を支持せんと欲す。 この光栄と権利を五千万分一以下に切り詰められたる時、 余は余が存在を否定し、 もしくは余が本国を去るの挙に出ずるあたわず、 むしろ力の続くかぎり、 これを五千万分一に回復せんことを努むべし。 これ余が微少なる意志にあらず。 余が意志以上の意志なり、 余が意志以上の意志は、 余の意志をもっていかんともするあたわざるなり。 余の意志以上の意志は余に命じて、 日本臣民たるの光栄と権利を支持するために、 いかなる不愉快をも避くるなかれという。
B 「欧州今日文明の失敗」
貧富の懸隔 ◆幾多有為の人材を年々餓死凍死無教育に終らせている。
「カールマークスの所論の如きは単に純粋の理屈としても欠点有之べくとは存候へども今日の世界に此説の出づるは当然の事と存候」
◆フランス革命はやはり封建制度を倒して資本主義に変化したに過ぎず、第二のフランス革命
◇日本の紳商なる者は理非を弁ぜず、宗教心などもなく、ただ我がままの心があるばかり「見ヨ 見ヨ彼等ノ頭上ニ電光ノ忽然ト閃ク時節アラン」
C 留学当時のノート「日本人の目的」
「(1)文明ノ大勢ニ従ヒchanceヲminimum ニスルコト
(2)外国ニ抵抗シ、 之ヲ圧伏スルコト
(3)宇内ヲ統一スルコト
(4)然ル後世界全体ヲ改造スルコト」
D 英国時代の日記
a 夜下宿ノ三階デツクヅク日本の前途を考ウ。日本ハ真面目ナラザルベカラズ。日本人ノ眼ハヨリ大ナラザルベカラズ。 [ 倫敦消息]
b 英人ハ天下一ノ強国ト思ヘリ仏人モ天下一ノ強国ト思ヘリ独乙人モシカ思ヘリ彼等ハ過去ニ歴史アルコトヲ忘レツツアルナリ羅馬ハ亡ビタリ希臘モ亡ビタリ今ノ英国仏国独乙ハ亡ブルノ期ナキカ、日本ハ過去ニ於テ比較的ニ満足ナル歴史ヲ有シタリ、比較的ニ満足ナル現在ヲ有シツツアリ、未来ハ如何アルベキカ。
E 断片明治34年4月頃
ア(1) 金の有力なるを知りし事。
(2) 金の有力なるを知ると同時に金あるものが勢力を得し事。
(3) 金あるものの多数は無学無智野鄙なる事。
(4) 無学不徳義にても金あれば世に勢力を有するに至る事を事実に示したる故、 国民は窮屈なる 徳義を棄て、 ただ金をとりて威張らんとするに至りし事。
(5) 自由主義は秩序を壊乱せる事。
(6) その結果愚なるもの無教育なるもの齢ヨワイ するに足らざるもの不徳義のものをも士大夫の社会に入れたる事。
(7) 昔時は金の力を以て社会的の地位は高まらざりし事。 御用達は一個の賤業にして金あるため尊敬は受けざりし事。
(8) 猿が手を持つから始めて「クライブ」に終わる教育の恐るべき事。
イ(1) 今の文化は金で買へる文化なり。 金で買へる文化が最もよき文化なるか。 若し然らずんば日本が万事において西洋を崇拝するは愚なり。
(2) 義侠といふ語が西洋にない。 これは観念がないからだ。 小説などにはこのsacrifice といふことを綴ったものが少ない。
(3) 道徳は習慣だ。 強者の都合のよきものが道徳の形にあらはれる。 孝は親の権力の強き処、 忠は君の権力の強き処、 貞は男子の権力の強き処にあらはれる。
(4) 金さへあれば何でも我が意の如くさと云ふ様な顔をして居る奴にはたてをついて困らしてやるがいい。 日本を背負って立つ様な風をする政治家には民間で大議論を吐いて驚かしてやるがいい。 天下の学者は我一人だといはぬばかりのものにはむづかしい質問をかけてへこましてやるがいい。 己れは日本一の力持だといふものは小股をすくってなげてやるがいい。 軍人は国家の柱石だなどいふ奴には……
(5) 日本の昔の道徳はsubordination がよく出来て居る。 君臣、 父子、 夫婦
是は社会を統一して器械的に働かす為に尤も必要である。 今はだめ
F 「 倫敦消息」
①「こちらへ来てからどういうものかいやに人間が真面目マジメ になってね。色々な事を見たり聞キイたりするにつけて日本の将来という問題がしきりに頭の中に起る」
②日本の将来 この国の文学美術 この国の物質的開化 その進歩の裏面 いかなる潮流
紳士一般の人間鷹揚で勤勉同時に癪に障ること
日本の社会の有様たのもしくない情けないような心持 日本の紳士 徳育 体育 美育 ◆得意
◆浮華
◆彼等がいかに現在の日本に満足して一般の国民を堕落の淵に誘いつつあるかを知らざるほど近視眼であるか いろいろな不平 日本の上流社会の事に関して長い手紙
③新聞 第1 に支那事件魯国新聞朝鮮で朝鮮こそいい迷惑◆「トルストイ」
④「魯西亞と日本は争わんとして争わざらんとしつつある。支那は天子蒙塵の辱を受けつつある。英国はトランスヴァール( 南アフリカ) の金剛石を掘り出して軍事の穴を填めんとしつつある。此多事なる世界は昼となく夜となく回転しつつ波瀾を生じつつある」
[3]「愚見数則」
「月給の高下にて、 教師の価値を定むる勿れ」
「人を観よ、金時計を観る勿れ、洋服を観る勿れ、泥棒は我々より立派に出で立つものなり」
「理想なきものの言語動作を見よ、醜陋の極なり」
「理想は見識より出づ、見識は学問より生ず、学問をして人間が上等にならぬ位なら、初めから無学でいる方がよし」
「世に悪人ある以上は、喧嘩は免るべからず、社会が完全にならぬ間は、不平騒動なかるべからず、学校も生徒が騒動をすればこそ、漸々改良するなれ、無事平穏は御目出度に相違なきも、時としては、憂うべきの現象なり」
[4]『坊ちゃん』
a 世の中に正直が勝たないで、 外に勝つものがあるか。 考えて見ろ。 今夜中に勝てなければ、あした勝つ。 あした勝てなければ、 あさって勝つ。 あさって勝てなければ、 下宿から弁当を取り寄せて勝つまでここに居る。
b◎山嵐《教育の精神は単に学問を授けるばかりではない、 高尚な、 正直な、 武士的な元気を鼓吹すると同時に、 野卑な、 軽躁な、 暴慢な悪風を掃蕩するにあると思います。 》
c 向こうが人ならおれも人だ。
☆月給で買われた身体 *40円の月給[住田校長月給60円]
◆月給の多い方が豪いのじゃろうがなもし
d おれだって人間だ
◆議論のいい人が善人とはきまらない。 遣り込められる方が悪人とはきまらない。
◆《金力や威力や理屈で人の心が買える者なら、 》
e ハイカラ野郎の、 ペテン師の、 イカサマ師の、 猫被ネコッカブ りの香具師ヤシの、 モモンガーの、わんわん鳴けば犬も同然な奴
◆世の中はいかさま師ばかりで、 お互いに乗せっこをしているのかも知れない
f 向こうが人ならおれも人だ] 愚迂多良童子グウタラドウジ を極め込んでいれば、 向は益々増長するばかり、 大きく云えば世の中の為にならない
g ◆証拠がありますか◆貴様等は奸物だから、 こうやって天誅を加えるんだ。 これに懲りて以来つつしむがいい。 いくら言葉巧みに弁解が立っても正義は許さんぞ。
[5]『草枕』
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」 「唯の人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい」
「越す事のならぬ世が住みにくければ、 住みにくい所をどれほどか、 寛容クツロゲて、 束ツカの間マ の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ」
◆◇◆『草枕』脱稿直後の深田康算にあてた手紙
自分も一種の社会主義者だから、電車賃値上げ反対運動に社会主義者の堺利彦と共に参加したと新聞に書かれても構わない
[6]『二百十日』
a 「文明の革命」 血を流さない、頭による革命
「文明の皮」をかぶって、貧しい人間、たよるもののない不幸な人々を苦しめる「文明の怪獣」
b 「世の中には頭のいい豆腐屋が何人いるか分らない。それでも生涯豆腐屋さ。気の毒なものだ」
「その豆腐屋連が馬車に乗ったり、別荘を建てたりして、自分だけのの中の様な顔をしているから駄目だよ」「やり給えじゃいけない。君もやらくちあ」
c 「豆腐屋だって人間だ」 「饂飩屋だって正業だ。 金を積んで、貧乏人を圧迫する様な人間より遥ハルかに尊タット いさ」「田舎者の精神に、文明の教育を施すと立派な人物が出来るんだがな」
d「文明の皮」「奇麗な顔をして、下卑ゲビた事ばかりやってる」
◆身分がよかったり金があったりする者が「下卑ゲビた根性を社会全体に蔓延させる」から「大変な害毒だ」
◆◆華族や金持ちは「文明の皮」をかぶった「文明の怪獣」「二十世紀の桀紂」だ
e 「華族や金持ちの出ない日はないね」 「いや、 日に何遍云っても云い足りない位、 毒々しくって図迂々々しい者だよ」「例えば今日悪いことをするぜ、 成功しない。」「 成功しないのは当り前だ」「すると、 同じ様なわるい事を明日やる。 それでも成功しない。 すると、 明後日になって、 又同じ事をやる。 成功する迄は毎日々々同じ事をやる。 三百六十五日でも七百五十日でも、 わるい事を同じ様に重ねて行く。 重ねてさえ行けば、 わるい事が、 ひっくり返って、 いい事になると思ってる。 言語道断だ」「そんなものを成功させたら、 社会は滅茶苦茶だ」
f 「我々が世の中に生活している第一の目的は、 こういう文明の怪獣をを打ち殺して、 金も力もない、 平民に幾分でも安慰を与えるにあるだろう」
g「あると思うなら、 僕と一所にやれ」
◇「仏国の革命なんてえのも当然の現象さ。あんなに金持ちや貴族が乱暴をすりゃ、ああなるのは自然の理屈だからね。ほら、あの轟々鳴って吹き出すのと同じ事さ」「僕の精神はあれだよ」
[7]戦闘の精神
自分が何者であるかは生きてみなければ分からない 倒れるまで『野分』
a 寺田寅彦宛書簡 M38・2・7
「漱石が熊本で死んだら熊本の漱石で。 漱石が英国で死んだら英国の漱石である。 漱石が千駄木で死ねば又千駄木の漱石で終わる。 今日まで生き延びたから色々の漱石を諸君に御目にかけることが出来た。 是から十年後には又十年後の漱石が出来る。 俗人は知らず漱石は一個の頑塊なり変化せずと思う。 此故に彼等は皆失敗す。 漱石を知らんとせば彼等自らを知らざる可からず。 這般の理を解するものは寅彦先生のみ」Dynamic Low on Mr.K Natume
b 森田草平宛書簡
①★☆自己 1905 明治39 2月13日
他人は決して己以上遥かに卓絶したものではない又決して己以下に遥かに劣ったものではない。 特別の理由がない人には僕は此心で対して居る。 夫で一向差支はあるまいと思ふ。 君弱いことを云ってはいけない。 僕も弱い男だが弱いなりに死ぬ迄やるのである。 やりたくなくったったてやらなければならん。 君もその通りである。 死ぬのもよい。 然し死ぬよりも美しい女の同情でも得て死ぬ気がなくなる方がよかろう 。
② 1906年 2月13日
天下に己れ以外のものを信頼するより果敢なきはあらず。 而も己れ程頼みにならぬものはない。 どうするのがよいか。 森田君此問題を考へたことがありますか。
③「百年の後百の博士は土と化し千の教授も泥と変ずべし」
人若し向上の信を抱いで原事をなす時貴キ事神人ヲ超越シテ蓋天蓋地に自我ヲ観ズ。天子様ノ御威光デモ是許リハドウモ出来ン。漱石ハ喧嘩ヲスル度ニ此域ニ出入ス。白楊先生は如何
c 内田魯庵宛書簡 1906明治39 1月5 日
拝啓イワンの馬鹿御寄贈を蒙り深謝早速読了致候小生イワンの原書を読まざりし為め却て一段の興味を覚え候。 どうかしてイワンの様な大馬鹿になって見たいと存候。
出来るならば一日でもなって見たいと存候。 近頃少々感ずる事有之イワンが大変頼母しく相成候。 イワンの教訓は西洋的にあらず寧ろ東洋的と存候。 右不敢取御礼迄。 草々頓首。
d 狩野亨吉宛書簡1906年10月23日
ア「自分の立脚地から云ふと感じのいい愉快の多い所に行くよりも感じの悪い、 愉快の少ない所に居ってあく迄喧嘩をして見たい」 「それでなくては生甲斐のない様な心持ちがする。何の為めに世の中に生れているのかわからない気がする」
イ「僕は世の中を一大修羅場と心得ている。そうしてその内に立って花々しく打死をするか敵を降参させるかどっちかにして見たいと思っている」
ウ「打死をしても自分が天分を尽くして死んだという慰籍原があればそれで結構である」
「 尤も烈しい世の中に立って(自分の為め、家族の為めは暫らく措く)どの位人が自分の感化をうけて、どの位自分が社会的分子となって未来の青年の肉や血となって生存し得るかをためして見たい」
エ◇「彼等がかく迄に残酷なものであると知ったら、こっちも命がけで死ぬ迄勝負をすればよかった」
オ ◆自分が戦わなければ、それだけ「社会の悪徳を増長」させることになる。これからはこんな場合には「 決して退くまい。否進んで当の敵を打ち斃してやろう」と決心した。
e 高浜虚子宛 1936 年(明治39)7 月3 日の手紙
「正しい人が汚名をきて罪に処せられる程悲惨なことはあるまい」今の考えは「どうかそんな人になって見たい。世界総体を相手にしてハリツケにでもなつてハリツケの上から下を見て此馬鹿野郎と心のうちで軽蔑して死んで見たい」
◆◆『猫』第十一「人が認めないことをすれば、どんないい事をしても罪人さ、だから世の中に罪人ほどあてにならないものはない。耶蘇もあんな世に生まれれば罪人さ」
f 鈴木三重吉宛 10 月26日
子供の時から幸福な生活を求めつづけ、不幸を避けようとばかりして来たのはあやまり「 キタナイ者でも、 イやなものでも一切避け」 ず、 進んでその中に飛び込まなければ何もできない。この世には戦わなければならない敵が前後左右にたくさんいるのだから、「苟も文学を以て生命とするものならば単に美という丈では満足が出来ない。丁度維新の当士勤王家が困苦をなめた様な了見にならなくては駄目だらうと思う」「 間違ったら神経衰弱でも気違でも入牢でも何でもする気でなくては文学者になれまいと思う」「 僕は一面に於て俳諧的文学に出入すると同時に一面に於て死ぬか生きるか、命のやりとりをする様な維新の志士の如き烈しい精神で文学をやって見たい。」
g 森田草平宛 1911年明治44 1月3 日
正月早々苦情を申し候。われ等は新しきものの味方に候。故に「新潮」式の古臭き文字を好まず候。草平氏と長江氏はどこ迄言っても似たる処甚だ古く候。
[8]『虞美人草』
A「君は日本の運命を考えたことがあるのか」
「日本とロシアの戦争じゃない。人種と人 種の戦争だよ」
「アメリカを見ろ、印度を見ろ、アフリカを見ろ」
B 悲劇は遂に来た。来るべき悲劇はとうから予想していた。予想した悲劇を為すが儘の発展に任せて、隻手をだに下さぬは、業深き人の所為に対して隻手の無能なるを知るが故である。悲劇の偉大なるを知るが故である。悲劇の偉大なる勢力を味わわしめて、三世に跨がる業を根柢から洗わんが為である。不親切な為ではない。隻手を挙ぐれば隻手を失い、一目を動かせば、一目を眇す。手と目とを害ソコノ うて、しかも第二者の業は依然として変らぬ。のみならず時々に刻々に深くなる。手を袖に、眼を閉ずるは恐るるのではない。手と目より偉大なる自然の制裁を親切に感受して、石火の一拶に本来の面目に逢着せしむるの微意に外ならぬ。
C ( 悲劇は)忽然として生を変じて死となすが故に偉大なのである。忘れたる死を不用意の際に点出するから偉大なのである。巫山戯フザケ たるものが急に襟を正すから偉大なのである。襟を正して道義の必要を今更の如く感ずるから偉大なのである。人生の第一義は道義にありとの命題を脳裏に樹立するが故に偉大なのである。
D 死を忘るるものは贅沢になる。 一浮も生中である。 一沈も生中である。 一挙手も一投足も悉く生中にあるが故に、 如何に踴るも、 如何に狂うも、 如何に巫山戯るも、 大丈夫生中を出ずる気遣いなしと思う。 贅沢は高じて大胆になる。 大胆は道義を蹂躙して大自在に跳梁する。
万人は日に日に生にむかって進むが故に、 大自在に跳梁して毫も生中を脱するの虞オソレ なしと自信するが故に、 ─道義は不必要となる。
道義に重きを置かざる万人は、道義を犠牲にしてあらゆる喜劇を演じて得意である。巫山戯る。騒ぐ。欺く。嘲弄する。馬鹿にする。踏む。蹴る。─悉く万人が喜劇より受くる快楽である。この快楽は生に向って進むに従って分化発展するが故に─この快楽は道義を犠牲にして始めて享受し得るが故に─喜劇の進歩は底止する所を知らずして、道義の観念は日を追うて下クダる。道義の観念が極度に衰えて、生を欲する万人の社会を満足に維持しがたき時、悲劇は突然として起る。ここに於いて万人の眼は悉く自己の出立点に向う。始めて生の隣に死が住む事を知る。縄は新たに張らねばならぬを知る。第二義以下の活動の無意味なるを知る。而シカして始めて悲劇の偉大なるを知る。……
E 「此所では喜劇ばかり流行ハヤる」
[9]『三四郎』
A 爺さん 旅順以後急に同情を催して
自分の子も戦争中兵隊に取られて彼地アッチ で死んでしまった。
//一体戦争は何の為にするのものだか解らない。
// 後で景気でも好くなればだが、 大事な子は殺される、 物価ショシキは高くなる。 こんな馬鹿げたものはない。 世の好い時分に出稼ぎなどと云うものはなかった。 みんな戦争の御蔭だ。 何しろ信心が大切だ。 生きて働いているに違いない。 もう少し待っていればきっと帰って来る。
B 西洋人 お互いは憐れだなあ
C 熊本より東京は広い。 東京より日本は広い。 日本より……
△日本より頭の中の方が広いでしょう
△囚われちゃ駄目だ。 いくら日本の為を思ったって贔屓の引き倒しになるばかりだ。
▲熊本 国賊取扱
◆真実に熊本を出た様な気がした。 同時に熊本に居た時の自分は非常に卑怯であったと悟った。
[10]『彼岸過迄』について 明治四十五年一月
去年の八月頃
◇自分の当然やるべき仕事 義務 久し振りだから成るべく面白いものを書かなければ済まないという気 社友の好意 読者の好意 念力だけでは
◆自然派の作家でもなければ象徴派の作家でもない。・・・ネオ浪漫派の作家では尚更ない。
◆固定した色に染め付けられているという自信を持ち得ぬ 又そんな自信を不必要とするものである。ただ自分は自分であるという自信を持っている。[「イズムの功過」]
◆新しいくと吹聴することも好まない。今の世にむやみに新しがっているものは三越呉服店とヤンキーとそれから文壇における一部の作家と評家だろう
◆文壇に濫用される空疎な流行語を藉りて自分の作品の商標としたくない
◆ただ自分らしいものが書きたい
◇朝日新聞の購読者 何十万( 東西あわせて26万) 文壇の裏通りも露路も覗いた経験はあるまい
全くただの人間として大自然の空気を真率に呼吸しつつ穏当に生息しているだけだろう
自分はこれらの教育あるかつ尋常なる士人の前に我が作物を公にし得る自分を幸福と信じている
[11] 私の個人主義
A 自己の本領 自己本位 出発点の回想 自己を語る
B 権力 自分の個性を他人の頭の上に無理矢理圧し付ける道具
金力 他人の上に誘惑として使用し得る道具として至極重宝なもの
権力を振り蒔いて、 他を自分のようなものに仕立上げようとする
◆ 金を誘惑の道具として、 其誘惑の力で他を自分に気に入るように変化させようとする
C 私の考えによると、 責任を解しない金力家は、 世の中にあってはならないものです。
◆金銭 至極重宝 どんな形にでも変わって行くことが出来る [永日小品]
◆そのうちでも人間の精神を買う手段に使用出来るのだから恐ろしい[ 野分] 人間の徳義心を買い占める、 即ち其人の魂を堕落させる道具とするのです。
◆相場で儲けた金が徳義的倫理的に大きな威力不都合実際その通りに金が活動するなら・・・
◆見識の必要見識に応じて、 責任を以てわが富を処置しなければ世の中に済まない いな自分自身にも済むまい
◆もし人格のないものが無闇に個性を発展しようとすると、 他を妨害する、 権力を用いようとすると、 濫用に流れる、 金力を使おうとすれば、 社会の腐敗をもたらす。
個人主義 金力権力の点に於て其通りで、 俺の好かない奴だから畳んでしまえとか、 気に喰わない者だから遣っ付けてしまえとか、 悪いこともないのに、 ただそれらを濫用したら何うでしょう。 人間の個性はそれで全く破壊されると同時に、 人間の不幸も其処から起こらなければなりません。 たとえば私が何も不都合を働かないのに、 単に政府に気に入らないからと云って、 警視総監が巡査に私の家を取り巻かせたら何んなものでしょう。 警視総監に夫丈の権力はあるかも知れないが、 徳義はそういう権力の使用を彼に許さないのであります。 ◇又は三井とか岩崎とかいう豪商が、 私を嫌うという丈の意味で、 私の家の召使を買収して事ごとに私に反抗させたなら、 是又何んなものでしょう。 もし彼等の金力の背後に人格というものが多少ともあるならば、 彼等は決してこんな無法を働く気にはなれないのであります。
◆党派心がなくて、 理非がある主義 朋党を結び団体を作って、 権力や金力のために盲動しないということなのです。 ◆人に知られぬ淋しさ
◆個人主義は人を目標として向背を決する前に、 まず理非を明らめて、 去就を定めるのだから、 或場合にはたった一人ぼっちになって、 淋しい心持がするのです。 それはその筈です。 槙雑木マキザッポウでも束になっていれば心丈夫ですから。
◆一体何々主義ということは私のあまり好まない所で、人間がそう一つ主義に片付けられる者ではあるまいとは思いますが・・・・・
◆国家主義個人主義なるものを蹂躙しなければ国家が亡びるような事を唱導するものも少なくはありません。 けれどもそんな馬鹿気た筈は決してありようがないのです。 事実私共は国家主義でもあり、 世界主義でもあり、 同時に又個人主義でもあるのであります。 [ 野分]
◆私のいう個人主義のうちには、 火事が済んでもまだ火事頭巾が必要だと云って、 用もないのに窮屈がる人に対する忠告も含まれている・・・・
◆国が強く、 戦争の憂が少なく、 そうして他から犯される憂なければない程、 国家的観念は少なくなって然るべき訳で、 其空虚を充たす為に個人主義が這入って来るのは理の当然・・・・
◆日本が今が今潰れるとか滅亡の憂目にあうとかいう国柄でない以上は、 そう国家々々と騒ぎ廻る必要はない筈です。 火事の起こらない先に火事装束をつけて窮屈な思いをしながら、 町内中を駈け歩くのと一般であります。
◆国家を標準とする以上、 国家を一団と見る以上、 余程低級な道徳に甘んじて平気でいなければならないのに……徳義心の高い個人主義に矢張重きを置く方が、 私にはどうしても当然のように思われます。
[11]『点頭録』
「また正月が来た」
A 多病な身体が又一年生き延びるにつけて、自分の為すべきことはそれ丈量において増すのみならず、質においても幾分か改良されないとも限らない。・・・・ 自分は出来る丈余命のあらん限りを最善に利用したいと心掛けている。
B 寿命は自分の極キ めるものでないから、固より予測は出来ない。自分は多病だけれども、趙州の初発心の時よりもまだ十年も若い。たとい百二十迄生きないにしても、力の続く間、努力すればまだ少しは何か出来る様に思う。それで私は天寿の許す限り趙州の顰みにならって奮励する心組でいる。古仏と云われた人の真似も長命も無論わが分ではないかも知れないけれども、羸弱なら羸弱なりに、現にわが眼前に開展する月日に対して、あらゆる意味に於いての感謝の意を致して、自己の天分の有り丈を尽そうと思うのである。自分は点頭録の最初に是丈の事を云っておかなければ気が済まなくなった。
「軍国主義」
A 自分は常にあの弾丸とあの硝薬とあの毒瓦斯とそれからあの肉団と鮮血とが、我々人類の未来の運命に何ド の位貢献しているだろうかと考える。そうして或る時は気の毒になる。或る時は悲しくなる。又或る時は馬鹿々々しくなる。最後に折々は滑稽にさえ感ずる場合もあるという残酷な事実を告白 せざるを得ない。
B 人道の為の争いとも、信仰の為の闘いとも、又意義ある文明の為の衝突とも見做す事の出来ないこの砲火の響を、自分はただ軍国主義の発現として考えるより外に翻訳の仕様がなかった」
C 待対世界の凡てのものが悉く条件つきで其存在を許されている以上、向後に回復されべき欧洲の平和にも、亦絶対の権威が伴っていない事だけは誰の眼にも明かである。然し彼等が其平和の必要条件として、それとは全く両立しがたい腕力の二字を常に念頭に置くべく強いられるに至っては、彼等と雖も今更ながら天のアイロニーに驚かざるを得まい。現代に所謂列強の平和とはつまり腕力の平均に外ならないという平凡な理屈を彼等は又新しく天から教えられたのである。土俵の真中で四つに組んで動かない力士は、外観上至極平和そうに見える。今迄彼等の享有した平和も、実はそれ程に高価で、又それ程に苦痛性を帯びていたのである。しかも彼等は相撲取のようにそれを自覚していなかったために突然罰せられた。換言すれば生存上腕力の必要を向後当分の間忘れる事の出来ないように遣付けられた。軍国主義が今迄彼等に及ぼした、又是から先彼等に及ぼす影響は決して浅いものではない。又短いものでもなかろう。
「トライチケ」
A◆どんな犠牲を払っても勝て。 ◆◆実社会を至極手荒いものに考えた。仁義博愛は口に云うべくして政治上に行うべきものでないと信じた。斯くして彼はあらゆる人道的及び自由主義の運動に反対したのである。
B 個人の場合でも唯喧嘩に強いのは自慢にならない。徒らに他を傷アヤめる丈である。 国と国とも同じ事で、単に勝つ見込みがあるからと云って、妄りに干戈を動かされては近所が迷惑する丈である。文明を破壊する以外に何の効果もない。勝ったものは勝った後で、其損害を償う以上の貢献を、大きな文明に対してしなければならない筈である。自分は今の独乙にそれ丈の事を仕終せる精神と実力があるか何うかを危ぶまざるを得ないのである。
『思ひ出す事など』
[7] ア 三世にわたる生物全体の進化論と、(ことに) 物理の原則に因って無慈悲に運行し情義なく発展する太陽系の歴史を基礎として、 その間に微かな生を営む人間を考えて見ると、 吾等如きものの一喜一憂は無意味と云わん程に勢力のないという事実に気が付かずにはいられない。
イ この山とこの水とこの空気と太陽の御蔭によって生息する吾等人間の運命は、 吾等が生くべき条件の備わる間の一瞬時---永劫に展開すべき宇宙歴史の長きより見たる一瞬時---を貪るに過ぎないのだから、 はかないと云わんよりも、 ほんの偶然の命と……
ウ 平生の吾等はただ人を相手にのみ生きている。 その生きるための空気に就いては、 あるのが当然だと思って未だ甞て心遣さえしたことがない。
◆人間のために出来た空気ではなくて、 空気のために出来た人間なのである。
◆今にもあれこの空気の成分に多少の変化が起こるならば……
エ 人間の自惚れ ◆支那人 中華ではない ◆黒船 日本だけが神国でない
◆地球が宇宙の中心でなかったことを◆進化論を知り、 星雲説を想像する現代の吾等は辛きディスイリュージョンを嘗めている。
オ 人間の生死 人間を本位とする吾等から云えば大事件に相違ないが、 ……自己が自然に成り済ました気分で観察したら……
[17] 大いなるものは小さいものを含んで、 その小さいものに気が付いているが、 含まれたる小さいものは自分の存在を知るばかりで、 己等の寄り集まって拵えている全部に対しては風馬牛の如く無頓着であるとは、 ゼームスが……
[19]ア 自活の計に追われる動物として ◆この相撲に等しい程の緊張
◆自己と世間の間に、 互殺の平和を
イ かく単に自活自営の立場に立って見渡した世の中は悉く敵である。
ウ 四十を越した男 自然に淘汰されんとした男 善良な人間になりたい
◆そうしてこの幸福な考えをわれに打ち壊す者を、 永久の敵とすべく心に誓った。
[23]ア 好意の干乾びた社会 義務 感謝 ◆情
イ 「自我の主張」 それ程世の中は切り詰められたのである。 それ程今の世の中は青年を虐待
ウ 雀の子か烏の子 医師は職業である 看護婦も職業である 一点の好意
エ この感情が遠からず単に一片の記憶に変化してしまいそうなのを切に恐れている。
『社会と自分』
A「現代日本の開化」
「開化が進めば進むほど競争が益マスマス劇ハゲしくなって生活はいよいよ困難になるような気がする」「競争その他からいらいらしなければならない心配を勘定に入れると、吾人の幸福は野蛮時代とそう変りはなさそうである」「外発的な開化」多くの無理◆『それから』「 進化の裏面を見ると何時でも退化であるのは、古今を通じて悲しむべき現象」
B「道楽と職業」
「現代の文明は完全な人間を日に日に片輪者に打崩しつつ進む」
C「中味と形式」
(1) 形式は内容のための形式であって、形式のために内容が出来るのではない・・・・内容が変れば外形 というものは自然の勢いで変って来なければならぬ・・・・・
*一種の形式を事実より前に備えて置いて、 その形式から我々の生活を割出そうとするならば、・・・・ その無理を遂行しようとすれば、 学校なら騒動が起る、 一国では革命が起る。
(2) 何故徳川氏が亡びて、維新の革命がどうして起ったか。つまり一つの型を永久に持続する事を中 味の方で拒むからなんでしょう。なるほど一時は在来の型で抑得られるかも知れないが、どうしたって内容に伴れ添わない形式は何時か爆発しなければならぬと見るのが穏当で合理的な見解であると思う。
◆観念に対する事実の優位性 現実を理論に従属させ、形式に囚われがちな学者の欠陥
◇現に生活している普通の人たち「実生活の経験を嘗めているもの」の現実の必要
D「文芸と道徳」
1.「完全な一種の理想的の型」旧時代の道徳権力者に都合のいいような義務の負担◆無理想、無解決を標榜して、結局は現代の不条理、人間と社会の弱点をすべてを容認する自然主義
2.人間の歴史は今日の不満足を次日物足りる様に改造し次日の不平を又其翌日柔らげて・・・・
3,☆現代には現代の理想が必要・・・・現に生活している普通の人々の生活の必要が生み出すもの◇現在生活の陥欠を補う新らしい意義を帯びた一種の浪漫的道徳◇「活社会の要する道徳」
『行人』
[32]336「こうして髭を生やしたり、 洋服を着たり、 シガーを銜えたりするところを上部から見ると、 如何にも一人前の紳士らしいが、 実際僕の心は宿なしの乞食みたように朝から晩までうろうろしている。 二六時中不安に追い懸けられている。 情けない程落付けない。 仕舞には世の中で自分程修養の出来ていない気の毒な人間はあるまいと思う。 そういう時に、 電車やなにかで、 不図眼を上げて向う側を見ると、 如何にも苦のなさそうな顔に出っ食わすことがある。 邪念の萌さないぽかんとした顔に注ぐ瞬間に、 僕はしみじみ嬉しいという刺激を総身にうける。 僕の心は旱魃に枯れかかった稲の穂が膏雨を得たように蘇える。 同時にその顔---何も考えていない、 全く落付払ったその顔が、 大変気高く見える。 ◆ほとんど宗教心に近い敬虔の念をもって、 その顔の前に跪いて感謝の意を表したくなる。 自然に対する僕の態度も全く同じ事だ。 昔のように唯うつくしいから玩ぶという心持は今の僕には起こる余裕がない」
337 「人間の不安は科学の発展から来る。 進んで止まることを知らない科学は、 かつて我々に止まることを許してくれたことがない。 徒歩から俥、 俥から馬車、 馬車から汽車、 汽車から自動車、 それから航空船、 それから飛行機と何処まで行っても休ませてくれない。 何処まで伴れて行かれるか分からない。 実に恐ろしい。」
◆「 人間全体が幾世紀かの後に到着すべき運命を、 僕は僕一人で僕一代のうちに・・・ 僕は人間全体の不安を、 自分一人に集めて、 そのまた不安を、 一刻一分の短時間に煮詰めた恐ろしさを経験している。
[38]343 宗教 血と涙で書かれた宗教の二字が、 最後の手段として、 躍り叫んでいる事を知っていました。
『明暗』
A この肉体はいつ何時どんな変に会わないとも限らない。それどころか、今現にどんな変がこの肉体のうちに起りつつあるかも知れない。そうして自分は全く知らずにいる。恐ろしいことだ。
B◆それが彼女の自然であった。然し不幸な事に、自然全体は彼女より大きかった。彼女の遥か上にも続いていた。公平な光を放って、 可憐な彼女を殺そうとしてさえ憚らなかった。 ◆◆大きな自然は、彼女の小さい自然から出た行為を、遠慮なく蹂躙した。一歩ごとに彼女の目的を破壊して悔いなかった。
C もし夫が自分の思う通り自分を愛さないならば、腕の力で自由にして見せるという堅い決心であった。のべつにこの決心を実行して来た彼女は、詰りのべつに緊張していると同じ事であった。そうしてその緊張の極度は何処かで破裂するに極まっていた。
D 人間の境遇もしくは位地の懸絶といったところで大したものじゃないよ。 本式に云えば十人が十人ながら略同じ経験を、 違った形式で繰り返しているんだ。 それをもっと判然云うとね、 僕は僕で、 僕に最も切実な眼でそれを見るし、 君は又君で、 君に最も適切な眼でそれを見る。 まあその位の違だろうじゃないか。 だからさ、 順境にあるものが一寸面食らうか、 迷児つくか、 蹴爪ずくかすると、 そらすぐ目の球の色が変って来るんだ。
『硝子戸の中』
A(どんな人でも)心の奥には、私の知らない、又自分達さえ気のつかない、継続中のものがいくらでも潜んでいるのではなかろうか。もし彼等の胸に響くような大きな音で、それが一度に破裂したら、彼等は果してどう思うだろう。今と昔と又その昔の間に何等の因果を認める事の出来ない彼等は、そういう結果に陥った時、何と自分に解釈して見る気だろう。所詮我々は自分で夢の間に製造した爆裂弾を、思い思いに抱イダきながら、一人残らず、死という遠い所へ、談笑しつつ歩いて行くのではなかろうか。唯どんなものを抱ダ いているのか、他ヒトも知らず自分も知らないので仕合せなんだろう。
B 私は私の病気が継続であるという事に気が付いた時、欧州の戦争も恐らく何時の世からかの継続だろう考えた。けれども、それが何処からどう始まって、どう曲折して行くかの問題になると全く無知識なので、継続という言葉を解しない一般の人を、私は却って羨ましく思っている。
C これは社交ではありません。御互に体裁の好いことばかり云い合っていては、何時まで経タ ったって、啓発される筈も、利益を受ける訳もないのです。貴方は思い切って正直にならなければ駄目ですよ。
『道草』
世の中に片付くなんてものは殆どありゃしない。一遍起ったことは何時までも続くのさ。ただ色々な形に変るから他ヒトにも自分にも解らなくなるだけさ。
『それから』
A この借金が君、何時になったら返せると思うか。そりゃ外債位は返せるだろう。けれども、そればかりが借金じゃありゃしない。日本は西洋から借金でもしなければ、到底立ち行かない国だ。それでいて、一等国を以て任じている。そうして、無理にも一等国の仲間入をしようとする。だから、あらゆる方面に向って、奥行を削って、一等国だけの間口を張っちまった。なまじい張れるから、なお悲惨なものだ。牛と競争をする蛙と同じ事で、もう君、腹が裂けるよ。その影響はみんな我々個人の上に反射しているから見給え。こう西洋の圧迫を受けている国民は、頭に余裕がないから、碌な仕事は出来ない。悉く切り詰めた教育で、そうして目の廻る程こき使われるから、揃って神経衰弱になっちまう。話をして見給え大抵は馬鹿だから。自分の事と、自分の今日の、只今の事より外に、何も考えてやしない。考えられない程疲労しているんだから仕方がない。精神の困憊と、身体の衰弱とは不幸にして伴なっている。のみならず、道徳の敗退も一所に来ている。日本国中何所を見渡したって、輝いてる断面は一寸四方も無いじゃないか。悉く暗黒だ。その間に立って僕一人が、何と云ったって、何を為たって、仕様がないさ。僕は元来怠けものだ。いや、君と一所に往来している時分から怠けものだ。あの時は強いて景気をつけていたから、君には有為多望の様に見えたんだろう。そりゃ今だって、日本の社会が精神的、徳義的、身体的に、大体の上に於て健全なら、僕は依然として有為多望なのさ。そうなれば遣る事はいくらでもあるからね。そうして僕の怠惰性に打ち勝つだけの刺激もまたいくらでも出来て来るだろうと思う。然しこれじゃ駄目だ。今の様なら僕は寧ろ自分だけになっている。そうして、君の所謂有のままの世界を、有のままで受取って、その中僕に尤も適したものに接触を保って満足する。進んで外の人を、此方の考え通りにするなんて、到底出来た話じゃありゃしないもの――」
B 文明の圧迫を受けて、その重荷の下に唸る、劇烈な生存競争場裏に立つ人で、真によく人の為に泣き得るものに、代助は未だ曾て出逢わなかった。
正義 一元論 一神教
正義と戦争
多元論
本を読まなくなった 『こヽろ』
『硝子戸の中』冒頭 新聞
紙屑籠 『虞美人草』 学問 装飾用 装飾的学問 装飾的文学 詩人
世界観 英国からの手紙 倫のこと
ノート 学問
金◆◇「私の個人主義」
正直 「私の個人主義」
国家の道徳 個人の道徳 「私の個人主義」
文明 神経衰弱 ペスト 自然の制裁
「現代日本の開化」 文明 幸福
『行人』科学 現代の不安
世界 『硝子戸の中』 大戦 継続中
自己と世界 點頭録 世界への関心 自己への関心 周囲 情報 大世界
肉体 アレゴリー 転移
マックス・ノルダウ 退化論
実行的 『思ひ出す事など』「中味と形式」
『硝子戸の中』 女 死ぬことができないから
生きている人間として
『夢十夜』第一夜の女 第十夜 飛び込まなかった男
世界は変化する 未来 百年の後
人々は 世界は変化しないと思っている 今 思考の前提
『三四郎』 日本は滅びるよ 豚の鼻
『虞美人草』 悲劇論 世界滅却の日
偏見 心の鏡
キリスト教 一神論
東洋と西洋
当たり前と思っている 『思ひ出す事など』 『吾輩は猫である』
偽の世界 偽の夫婦 家族 偽の器 『行人』 『彼岸過迄』
英国留学 東洋と西洋 偏見 神 文化
『文学論』序
日本人 権利
偏見 キリスト教 東洋と西洋
『虞美人草』 道徳 平和 人間 希望 秩序 自然主義批判
自然主義と帝国主義 弱肉強食
好きなもの 『三四郎』 豚の鼻 『虞美人草』の藤尾 小夜のような女を踏みつぶす
民主主義と自由主義
則天去私
自然主義
生命主義
自己肯定 自己否定 大きな自然
世界の中で
海にもすめず山にも居られない
頭の中の世界と頭の外の世界
因果 偶然 『明暗』
変化 時代 人間
興味 意識の焦点 F+f
見える世界と見えない世界 隠された世界 語られた世界
戦争の時代 明治日本の発展 朝鮮 日韓併合
国家と思想 政治による干渉 南北朝正閏論 美濃部博士 滝川事件 今の歴史教科書問題
人間は罪を冒す 原罪という言葉 悪うを免れない 道徳
相手の武器 露西亜 西洋 戦後文界の趨勢
西洋と東洋 近代化
水陸両棲類 [文芸と道徳] 牛と馬 あいのこ [芥川宛書簡]
「イズムの功過」 統一病 [『思ひ出す事など』] オイケン
人間は一体何をしているのだ ガリヴァー旅行記
鴎外 新聞国
「道楽と職業」戦争の時代 人間の自由 生活 分業の時代 現代 資本主義
B「文芸委員は何をするか」 [「学者と名誉」]
エンドがない
SOS3-117 漱石を読む会 『行人』レジメ 1995・11・9
1:一郎の性格 学問真実正しい人魂の奥底偽の器あやす母と一郎
☆エンドとミーンズ自己鬱病 突飛な人間
2:直子温め得る和歌山の一夜鉢植の梅結婚制度
3:お貞
4:兄と弟二郎軽薄普通の人間『彼岸過迄』
5:父と母
6]344 Keine Bru 〃kke fu〃hrt von Mensch zu Mensch.
君は僕のお守りになって、 わざわざ一所に旅行しているんじゃないか。 好意そういう動機から出る君の言動は、 誠を装う偽りに過ぎないと思う。 朋友としての僕は君から離れるだけだ。
Einsamkeit, du meine Heimat Einsamkeit!
345 偽りの器
[39]349 「 死ぬか、 気が違うか、 それでなければ宗教に入るか、 僕の前途にはこの三つのものしかない。 兄さんの命の流れは、 刹那々々にぽつぽつ中断されるのです。
[40]351 「 何故山の方へ歩いて行かない。」 「モシ向コウガ 此方へ来るべき義務ガアッタラドウダ」
352神平凡な唯の人間に過ぎない自然の野人相手に兄さんという烈しい煩悶家
[44]僕は絶対だ。 ◆研究的な僕が実行的な僕に変化出来るだろう 絶対の境地図を開いて地理を調査する人◆迂闊矛盾
『吾輩は猫である』 トン子とスン子 砂糖
『三四郎』 豚の鼻 好きなもの
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